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札幌地方裁判所 昭和55年(行ウ)6号 判決

原告

川上修蔵

外三四名

被告

北海道教育委員会

右代表者委員長

細谷猛

右代理人教育長

寺山敏保

右訴訟代理人弁護士

山根喬

上口利男

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら(請求の趣旨)

1  被告が、昭和四四年六月六日付けでなした別紙所属校目録(一)(略)記載の原告らに対する戒告処分をいずれも取り消す。

2  被告が、昭和四五年一月二四日付けでなした別紙所属校目録(二)(略)記載の原告らに対する戒告処分をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告(請求の趣旨に対する答弁)

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告らは、後記懲戒処分を受けた時、いずれも、別紙所属校目録(一)及び(二)各記載の高等学校に勤務する地方公務員であり、北海道教職員組合(以下「北教組」という。)の組合員であった。

2(一)  被告は、昭和四四年六月六日、別紙所属校目録(一)記載の原告らのうち、原告斎藤信義に対し、給与の一〇分の一を三か月間減給する旨の、その余の原告らに対し、戒告に処する旨の各懲戒処分(以下「昭和四四年六月六日付け懲戒処分」という。)を行った。

(二)  被告は、昭和四五年一月二四日、別紙所属校目録(二)記載の原告らのうち、原告細野勲雄及び同藤瀬愿に対し、給与の一〇分の一を三か月間減給する旨の、その余の原告らに対し、戒告に処する旨の各懲戒処分(以下「昭和四五年一月二四日付け懲戒処分」という。)を行った。

(三)  原告斎藤信義、同細野勲雄及び同藤瀬愿に対する右減給処分は、その後、審査請求に対する裁決により、いずれも戒告処分に修正する旨の修正裁決がなされた。

3  被告の原告らを戒告に処する旨の各懲戒処分(以下「本件各懲戒処分」という。)はいずれも理由がなく、違法な処分であるから、原告らは、その取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否

請求原因1及び2の事実はいずれも認める。

三  抗弁

1  原告らは、次の違法行為を行った。

(一)(1) 別紙所属校目録(一)記載の原告らは、北教組の統制のもとに、昭和四三年一〇月八日のいわゆる一斉休暇闘争(以下「一〇・八闘争」という。)に参加するため、同目録記載の高等学校長に対し、年次有給休暇の届出を行い、これを口実として、別紙「懲戒処分の事由」目録(一)の中の各〈1〉記載のとおり、勤務場所を離脱し、学校の正常な運営を阻害した。

(2) 原告小原忠一、同松本徹及び同橋本浩二を除く別紙所属校目録(一)記載の原告らは、同目録記載の高等学校長から、別紙「懲戒処分の事由」目録(一)中の各〈2〉記載のとおり、宿日直勤務の命令を受けながら、これに従わず、宿日直勤務に従事しなかった。

(3) 原告斎藤信義は、昭和四三年一〇月釧路市で開催された第一回合同自主教育研究釧路集会(以下、教育研究集会を「教研集会」という。)に参加するため、原告小原忠一、同松本徹及び橋本浩二は、同年一一月帯広市で開催された第一八次合同教研全道集会に参加するため、それぞれ、別紙所属校目録(一)記載の高等学校長に対し、職務専念義務の免除を求め、いずれも同校長の承認が得られなかったにも拘らず、別紙「懲戒処分の事由」目録(一)(略)中の各〈3〉記載のとおり、同目録記載の日に勤務場所を離脱した。

(二) 別紙所属校目録(二)記載の原告らは、同記載の高等学校長から、別紙「懲戒処分の事由」目録(二)(略)記載のとおり、宿日直勤務の命令を受けながら、これに従わず、宿日直勤務に従事しなかった。

2  原告らの、右1(一)(1)の行為は地方公務員法三七条一項前段で禁止されている同盟罷業に該当するので、同条項に違反し、右1(一)(2)及び(二)の行為は同法三二条に違反し、右1(一)(3)の行為は同法三五条に違反する。よって、被告は、同法二九条一項により、右1(一)の行為を理由に別紙所属校目録(一)記載の原告らに対する昭和四四年六月六日付け懲戒処分を、右1(二)の行為を理由に同懲戒処分目録(二)記載の原告らに対する昭和四五年一月二四日付け懲戒処分を行った。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)(1)のうち、昭和四三年一〇月八日の一〇・八闘争参加のため、校長に対し、年次有給休暇届をしたこと、被告主張の時間、原告らが職場を離脱したことは認める。

ただし、それぞれの高校の慣行により、原告小久保公司の終業時刻は午後九時五〇分と、原告三原悟、同高橋昭三及び同三好宏一の就業時刻はいずれも午前八時一〇分と、原告厚谷悌二及び同香川恒夫の就業時刻はいずれも午前八時二五分と、原告河野章二の就業時刻は午前八時三〇分と、原告松田捷宣及び同小野寺隆夫の就業時刻はいずれも午前八時二〇分と、原告小原忠一及び同松本徹の終業時刻はいずれも午後九時一〇分と繰り下げ又は繰り上げられていたので、これを超える被告主張の勤務時間は実質的な勤務時間とはいえない。

2  抗弁1(一)(2)のうち、原告斎藤信義及び同田村忠孝に対し、宿日直勤務命令があった点は否認し、その余の原告らに対する事実は認める。

3  抗弁1(一)(3)のうち、被告主張の原告らがそれぞれ教研集会参加のため校長に対し、職務専念義務の免除を申し立てたが、校長がいずれもこれを承認しなかったことは認め、その余は争う。

4  抗弁1(二)の事実は認める。

五  再抗弁

1  地方公務員法三七条一項は憲法二八条に違反する。

代償措置の完備していない現行法のもとにおける公務員の争議権剥奪は憲法二八条に違反する。

(一) 代償措置論

公務員も憲法二八条にいう「勤労者」として、憲法二八条の労働基本権の保障が及ぶのであって、労働基本権の制約は、勤労者の提供する職務又は業務の性質が公共性の強いものであり、したがって、その職務又は業務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを避けるために必要やむを得ない場合に限定されるものといわなければならない。

さらに、労働基本権を制限するに当たっては、憲法二八条により代償措置を講じることが要請され、その代償措置は、労働基本権の制限に見合うもの、すなわち、剥奪された争議権に代わって、争議権の代替的機能を発揮し得るものでなければならない。

(二) 代償措置の要件

そして、右の要請を充足する代償措置であるためには、〈1〉代償機関が公平なものであること、〈2〉代償措置は、調停・仲裁手続であること、〈3〉右の調停・仲裁手続のあらゆる段階に当事者が参加することが認められていること、〈4〉裁定は両当事者を拘束するものであり、完全かつ迅速に実施されることの四要件を満たすことが必要である。

(三) 代償措置の欠如

ところで、現行法制のもとで判断の対象となる、地方公務員に関する右代償措置としては、地方議会の同意を得て委員が任命される人事委員会及び公平委員会制度がある。しかしながら、議会の同意を得るということだけでは、議会の多数党の意向に沿った人選の変頗性を排除できないなど、中立性を担保するものとしては極めて不十分なものであるうえに、機関の人的構成について、公務員ないしは公務員組合の要求や意見を反映させるための手続参加の制度的保障もない。また、人事委員会の勧告制度は、地方公共団体当局に対して拘束力を持たないものとなっている。さらには、人事委員会には、給与以外の勤務条件について研究を行い、その成果を議会又は任命権者に提出する権限が認められてはいるものの、それを勧告する権限は与えられていない。また、公平委員会に至っては、右のような人事委員会同様の権限さえ与えられていない。

このような人事委員会及び公平委員会制度では前記代償措置の四要件として指摘の代替的機能を持つものとは言えず、現行法のもとでは右四要件は充足されず、代償措置たりえない。つまり、地方公務員法三七条一項は、代償措置を講じることなくしてストライキを禁止するものである点で、憲法二八条に違反する無効な規定である。

2  地方公務員法三七条一項は憲法九八条二項及びILO八七号条約に違反する

地方公務員法三七条一項は、公権力の行使を担当する機関としての資格で行動する公務員、あるいは、その停廃が国民の全部又は一部の生命、身体の安全若しくは健康を危うくする業務に限定することなく、多種多様な職務を担当する地方公務員のストライキを全面一律に禁止する点において、ILO八七号条約三条一項、八条二項に違反し、ひいては憲法九八条二項に違反する無効な規定である。

3  一〇・八闘争に地方公務員法三七条一項を適用することは違憲である

一〇・八闘争は、人事院勧告が完全に実施されず、正常な代償措置としての機能を果たしていないことに対して、その完全実施を要求してなされたものであった。しかも、政府において、その完全実施のために「誠実に法律上及び事実上可能な限りのことを尽くした」にも拘わらず、完全実施ができなかったという事由は全く存在しない。他方、一〇・八闘争は、早朝一時間ないし就業前一時間という、きわめて短時間の争議行為に過ぎないのであって、その手段態様からみても相当性の範囲を逸脱したものとはいえない。したがって、一〇・八闘争に対し、地方公務員法三七条一項を適用して懲戒処分を行うことは、憲法二八条に違反するものであり、取消しを免れない。

4  本件宿日直命令は憲法二七条二項、地方公務員法二四条六項に違反する

宿日直の根拠とされる労働基準法施行規則二三条は、労働基準法四一条三号に基づくものとは認められず、憲法二七条二項に違反する。

また、地方公務員法二四条六項によれば、「職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、条例で定める」と規定するところ、北海道には、同法が要請している勤務条件たる宿日直に関する条例は存在しない。したがって、本件各校長の宿日直命令は、条例上の根拠を欠くものであって、地方公務員法二四条六項及び憲法二七条二項に違反し、校長の命じる宿日直勤務命令は地方公務員法三二条所定の適法な職務命令に該当しない。

5  本件各懲戒処分は懲戒権の濫用である

(一) 一〇・八闘争と懲戒権濫用

(1) 一〇・八闘争の目的と要求の正当性

一〇・八闘争は、いわゆる公務員共闘の統一要求に、日教組及び北教組の独自要求を加えた賃金ないし勤務条件の改善を求めたものである。そして、直接的な争議行為の目的は、端的に「人事院勧告の完全実施とそのための財源の完全確保」に絞ったものである。この目的及び要求は、公務員(組合)として当然のかつ最小限度の切実な要求であった。

(2) 一〇・八闘争に至る経過とその必要性

人事院勧告制度は、現行法上、公務員に対する給与改善の唯一の方法である。ところが、昭和四一年段階で、過去一八回の勧告につき政府が勧告どおりに完全実施したことは一度もなかった。さらに、昭和四三年八月の給与水準平均八パーセント引上げという人事院勧告は、組合側の要求を大幅に下回り、諸物価の高騰に追いつかないばかりか、いわゆる春闘相場に比較しても従来になく低率であり、公務員労働者は、民間労働者のみならず、公共労働部門の公社、現業労働者をも下回る劣悪かつ不合理極まりない状況下にあった。このような、状況下にあって、公務員共闘に結集する公務員労働者は、要求(葉書・電報)、請願、集会、座込み、動員による交渉など争議行為以外のあらゆる可能な手段、方法をもって政府に人事院勧告の完全実施を求めていった。しかし、それらも効果を上げるに至らず、最後に残された手段として、公務員共闘の全国闘争の一環としての一〇・八闘争に参加するに至った。

(3) 一〇・八闘争の原因についての政府当局の責任

一〇・八闘争時においては、組合の要求した人事院勧告の完全実施は、国会自体の要求するところでもあった。しかるに、政府は、この国会の意思にも反して、労働基本権制約に伴う代償措置を尊重する姿勢を示さず、賃金抑制策に終始し、完全実施を怠り続けた点において、本件争議行為の原因を作った。

(4) 一〇・八闘争の規模、態様、教育に対する影響

一〇・八闘争は、始業時一時間というごく短時間の単純不作為の職場放棄に過ぎず、それによって高校生に動揺、混乱を招いたこともなく、教育現場に支障のない程度のものであった。

(5) 一〇・八闘争に対する本件各懲戒処分の不当・過酷性

一〇・八闘争参加の原告らに対する昭和四四年六月六日付け懲戒処分は、その後の争議行為や、本件当時の同一行為に参加した他の公務員の処分に比して苛酷なものであった。さらに、右懲戒処分は、恣意的で一貫性がないのみならず、大量、苛酷な処分によるスト鎮圧によって組織破壊を意図し、組合員と幹部との離間策を図ったり、あるいは組合財政の困窮による組織弱体化を狙うなど、不当労働行為的な不当な動機による処分政策の強行であった。そして、同原告は、右懲戒処分により、三か月の昇給延伸措置を受け、それは、当年度にとどまらず、次年度以降退職後の年金にまで及ぶ経済的不利益を受けたものであって、右懲戒処分は苛酷すぎる処分である。

(6) まとめ

以上述べたとおり、一〇・八闘争参加の原告らに対する本件各懲戒処分は、裁量の限界を逸脱した違法があるのみならず、その争議行為の目的、要求の正当性、争議行為に至る経過、その必要性、争議行為の原因についての政府当局の責任、一〇・八闘争の規模、態様、教育に対する影響及び本件各懲戒処分の不当・苛酷性などの諸事実を勘案するならば、懲戒権の濫用として許されない。

(二) 宿日直闘争と懲戒権濫用

(1) 宿日直廃止要求の正当性

従来、宿日直担当者の変更は自由で、そのための許可願・届出書などは不要との取扱いで運用されてきた。もっとも、昭和四〇年ころからは、管理体制が強化され、事務職員等が割当表を持って直接該当者を回り、押印を求め、中には変更の際に管理職に届け出させたり、承認書を提出させたりする学校も出てきたが、殆どは従前どおりの取扱いであった。したがって、大多数の教職員は、割当表が「命令簿」の形式に変わっても、それを命令行為とは認識せず、勤務日の確認と手当支給を受ける証拠として押印していたというのがその実態であった。ところで、宿直の場合は、当日の勤務を終えて入直してから、仮眠時間はあるものの、翌日の勤務を終えるまで、実に、連続三三時間の学校勤務となる苛酷なものであり、しかも、その宿直施設が劣悪であることと相俟って、教員は、十分な睡眠も取れず、疲労を残しながら翌日の教壇に引き続き立たざるを得ない状況にあった。このように、宿日直は教員の心身を疲労させ、教育活動に計り知れない悪影響を及ぼし、また、著しく私生活を侵害するものであった。

このようなことから、宿日直は直ちに廃止すべしというのが、教職員の大多数の強い要求事項であり、教職員の健康管理と労働条件の改善、行き届いた教育に打ち込む体制の確立のためにも、早期に宿日直から教職員を解放すべきものであった。

(2) 本件闘争当時における宿日直の廃止状況、闘争に至る経過等

本件闘争当時、宿日直廃止の要求の正当性は、文部省・道教育委員会もこれを認めざる得ず、当然のこととして認識・支持されるとともに、全国の多くの都府県で、また道内でも小中学校において、宿日直を警備員に肩代わりさせる措置がとられ、教職員による宿日直は廃止されてきた。しかしながら、道教育委員会には道立高等学校の教職員の宿日直の負担を除去する積極的意欲がみられず、著しく遅れたままの状態であり、このことが本件宿日直廃止闘争を必要とした背景であった。原告らは、教職員を本務以外の宿日直勤務から解放することが教育行政の任務であるとの認識に立ち、宿日直拒否闘争は、労働基準法の完全適用を要求する権利闘争であり、超勤労働排除・労働時間短縮の闘いの端緒をなすものと考え、「最低四四年四月一日から宿日直全廃・警備員配置」の要求を掲げて、「既定方針通り二月一日より突入せよ」との北教組電報指令を受けて、このやむにやまれぬ宿日直拒否闘争に突入した。

(3) まとめ

以上のとおり、宿日直はその勤務実態が過酷で、教育と教職員の私生活に悪影響を及ぼしていたこと、国や他府県においては、徐々に廃止される状況にあったことに加えて、その成り立ちからして、これを存続させる必要がなかったこと、従来から教職員の義務とされる実情になかったこと、全国各地で宿日直者が殺害されるなどの事件が発生したこと、道内の小中学校で宿日直が廃止されたのは、北教組の闘争の結果であったこと、道教委は交渉の中でその廃止への努力を約束しながら、改善がみられなかったこと、また、苫小牧工業高校では、昭和四四年四月以降、同年二月までの校長の対応とは異なり、職務命令が出されていないにも拘らず懲戒処分が強行されたこと、いわゆる教員の地位に関するILO・ユネスコ勧告の内容(教員がその専門的職務を全うするために、補助的な職員を配置しなければならないとし、建物施設などを保守管理する警備員を置くよう勧告していること)等の事情並びに前記懲戒処分の過酷性、それに伴う経済的不利益の大きさなどから考えるならば、本件各懲戒処分は懲戒権の濫用として許されない。

(三) 全国教研集会への参加と懲戒権濫用

(1) 教員の研修権

教員の研修は、教育の本質に根ざすものであり、教育を司るものとしての専門性と自主性、自発性を不可欠の要素として成り立つものであって、憲法及び教育基本法上もこれを権利として保障している。教員の研修は、職務として行われるべきものであり、職務外の私的行為ではない。そして、校外自主研修への参加は、当然認められるべきものであり、教育公務員特例法(以下「教特法」という。)二〇条二項はこれを保障したものにほかならない。そうすると、同項の承認に際し本属長が審査できる事項は、研修の主体、内容面や研修の適否には及ばず、授業への支障に限定される。したがって、研修会への出席であり、かつ授業への支障がない限り、主催母体のいかんを問わず、教員がいかなる場を選択するかは、本来自由である。

なお、同条項でいう本属長、すなわち校長の承認とは、職務専念義務の免除ではなく、校外自主研修に公務として参加することの承認であり、授業への時間的支障の有無を学校として確認する覊束行為であるから、校長は、授業への支障がない限り、当該教員の校外自主研修への参加申出を承認しなければならない。また、授業への支障があるかどうかは、単に予定された授業時間に授業が行われないことを指すのでなく、長期的に学期ないし年間で回復できるかどうかの問題としてとらえるべきである。

(2) 教研集会の位置づけ

日教組の全国教研集会は、昭和二六年に開始され、以来、現在まで絶えることなく継続し、発展している。教研集会は、教科別、問題別に設定された課題について、教職員組合の郡市町村等の各支部支会等において、教育現場に即した教育実践をふまえて研究・討議を行い、次いで各都道府県ごとに成果が討議され、その全国的な集大成として全国教研集会が開催される。全国教研集会の成果は、都道府県、次いで支部支会、各学校へと還流され、学校の教育実践に生かされてゆく。北海道においては、昭和二六年一〇月に第一次全道教研集会が全国教研集会の一環として開催され、現在まで継続している。ところで、その集会には、教職員組合の組合員教員のほか、組合員でない教員、父母、研究者も自由に参加でき、そこでの研究には自主性が貫かれ、労働組合の団結強制は一切伴わず、多数決による拘束もない。日教組の組織が全国的な教育活動に生かされて、このような教研集会が可能となっているが、それは労使の抗争関係を前提とするいわゆる労働組合活動ではない。教職員組合は、教研集会の企画、組織化などの条件整備の部門を担当するが、研究内容の発表討論等は、全体集会、分科会に参加した教員たちが自主的に決定している。このように、教研集会は、教員の全国的で自主的・主体的な教育研究の場である。

(3) 授業への影響

原告斎藤信義が第一回合同自主教研釧路集会に参加した当日は土曜日で二学期の中間考査が実施された。しかしながら、当日、同原告が実施する考査科目はなく、試験監督にもなっていなかったのであるから、同原告については授業に支障はなかった。

第一八次合同教研全道集会の当日、原告橋本浩二の授業は副主任教員が、原告松本徹及び同小原忠一の授業は、いずれも代替教員がこれに当たり、いずれも授業への支障がなかった。

(4) 校長の不承認の違法性

原告小原忠一、同松本徹及び同橋本浩二は、第一八次合同教研全道集会に、原告斎藤信義は、第一回合同自主教研釧路集会に参加するに際し、校長の承認を求めたが、校長はこれを承認しなかった。かかる校長の行為は、教特法二〇条二項の裁量権を逸脱して違法であり、したがって、校長の不承認にかかわらず、教研集会に参加した同原告らは、何ら職務専念義務に違反していない。

(5) まとめ

以上の諸事情を考慮すると、それぞれの教研集会参加を理由とする本件各懲戒処分は、著しく均衡を失し、社会通念上合理性を欠くものであり、懲戒権の裁量の範囲を超えたものであり取り消すべきである。

(四) 総まとめ

以上のとおり、一〇・八闘争、宿日直闘争及び教研集会参加のいずれについても、その正当性は明らかであり、本件各懲戒処分は、いかなる観点からみても、社会通念上妥当性、合理性、相当性を有するとは認められない。ゆえに、本件各懲戒処分は、いずれも懲戒権の濫用として、取り消すべきである。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁はいずれも争う。

第三証拠(略)

理由

第一請求原因について

請求原因1及び2の事実はいずれも当事者間に争いがない。

第二抗弁について

一  昭和四三年一〇月八日の欠勤について

1  別紙所属校目録(一)記載の原告らが、一〇・八闘争参加のため、同目録記載の校長に対し、年次有給休暇届をしたこと、同原告らが別紙「懲戒処分の事由」目録(一)中の各原告欄の〈1〉記載の時間、職場を離脱したことは当事者間に争いがない。

また、(証拠略)、同高等学校長は、同原告らの右年次有給休暇届に対し、これを承認しなかったことが認められる。

2  出勤及び退勤時間の職場慣行について

(一) 原告小久保公司、同三原悟、同厚谷悌二、同河野章二、同松田捷宣、同小野寺隆夫、同香川恒夫、同小原忠一、同松本徹、同高橋昭三及び同三好宏一は、「それぞれの高校の慣行により、原告小久保公司の終業時刻は午後九時五〇分と、原告三原悟、同高橋昭三及び三好宏一の就業時刻はいずれも午前八時一〇分と、原告厚谷悌二及び同香川恒夫の就業時刻はいずれも午前八時二五分と、原告河野章二の就業時刻は午前八時三〇分と、原告松田捷宣及び同小野寺隆夫の就業時刻はいずれも午前八時二〇分と、原告小原忠一及び同松本徹の終業時刻はいずれも午後九時一〇分と繰り下げまたは繰り上げられていたので、これを超える被告主張の時間は実質的な勤務時間とはいえない。」と主張する。

(二) ところで、原告らは、本件各懲戒処分及びその処分の理由とされた各行為を行った当時、いずれも北海道学校職員の身分を有していたものであるところ、その勤務時間は、地方公務員法二四条六項、北海道学校職員の勤務時間及び休暇等に関する条例(昭和二七年北海道条例第八〇号・〈証拠略〉)を受けた北海道学校職員の勤務時間及び休暇に関する規則(北海道人事委員会規則一三―一・〈証拠略〉)二条により、一週間四四時間と定められ、また、その勤務時間の割り振りは、北海道立学校管理規則(〈証拠略〉)三一条により、校長が定めるとされていたことが認められる。

しかるところ、以下の括弧内の証拠によれば、昭和四三年一〇月八日の勤務の就業ないし終業時刻については、原告小久保公司の終業時刻は午後一〇時(〈証拠略〉)と、原告三原悟の就業時刻は午前八時(〈証拠略〉)と、原告厚谷悌二の就業時刻は午前八時一〇分(〈証拠略〉)と、原告河野章二の就業時刻は午前八時(〈証拠略〉)と、原告松田捷宣及び同小野寺隆夫の就業時刻はいずれも午前八時(〈証拠略〉)と、原告香川恒夫の就業時刻は午前八時二〇分(〈証拠略〉)と、原告小原忠一及び同松本徹の終業時刻はいずれも午後一〇時(〈証拠略〉)と、原告高橋昭三及び同三好宏一の就業時刻はいずれも午前八時(〈証拠略〉)と、それぞれの校長により定められていたことが認められる。

以上のように、原告ら地方公務員である北海道学校職員の勤務時間は、法令に基づき明確に定められていることから、これと異なる慣行ないし取扱いを認める余地はない。仮に、原告ら主張のような出勤及び退勤時間の慣行あるいは取扱いが一部の学校において生じていたとしても、それは法令に違反するものであり、法的効果を認めることはできない。したがって、その慣行をもって、右各原告らの欠務した時間が勤務時間でないとはいえないから、原告らの右主張は採用できない。

よって、右原告らも、昭和四三年一〇月八日に別紙「懲戒処分の事由」目録(一)中の各原告欄の〈1〉記載の時間、職務専念義務に違反して、職場を離脱したことになる。

3  以上の原告らの職場離脱がいずれも北教組の一斉休暇闘争のもとに行われたものであったことをも斟酌すると、その職場離脱により学校の正常な運営が阻害されたことは容易に推認できる。

二  宿日直闘争について

1  原告小原忠一、同松本徹、同橋本浩二、同斎藤信義及び同田村忠孝を除く別紙所属校目録(一)及び(二)各記載の原告らは、同目録記載の高等学校長から、別紙「懲戒処分の事由」目録(一)中の各原告欄の〈2〉及び別紙「懲戒処分の事由」目録(二)各記載のとおり、いずれも宿直又は日直勤務の命令を受けながら、これに従わず、宿直又は日直勤務に従事しなかったことは、当事者間に争いがない。

2  原告斎藤信義及び同田村忠孝に対する宿日直勤務命令について

(一) (証拠略)、原告斎藤信義は、当時の勤務校であった北海道厚岸水産高等学校長から、昭和四四年二月五日に宿日直勤務命令簿により同月一五日の日直勤務命令を、同月一二日に同命令簿により同月一六日の宿直勤務命令を受け、それぞれ右命令簿へ受領印を押すよう求められたがこれを拒否し、当一五日の校長の説得にも応ぜず、右日直及び宿直勤務に従事しなかったことが認められる。

(二) (証拠略)、原告田村忠孝は、当時の勤務校であった北海道森高等学校長から、昭和四四年二月八日に宿直勤務命令簿により同月一三日の宿直勤務命令を受け、右命令簿へ受領印を押すよう求められたがこれを拒否し、その後口頭で同内容の職務命令を受けたが、これに従わず、同日の宿直勤務に従事しなかったことが認められる。

三  教研集会参加のための欠勤について

1  原告斎藤信義は、昭和四三年一〇月釧路市で開催された第一回合同自主教研釧路集会に参加するため、原告小原忠一、同松本徹及び同橋本浩二は、同年一一月帯広市で開催された第一八次合同教研全道集会に参加するため、それぞれ、別紙所属校目録(一)記載の原告各自所属の高等学校長に対し、職務に専念する義務の免除を求めたこと、これに対し、同校長がいずれもこれを承認しなかったことは、当事者間に争いがない。

2  また、(証拠略)、原告斎藤信義、同小原忠一、同松本徹及び同橋本浩二は、それぞれ別紙「懲戒処分の事由」目録(一)中の各原告欄の〈3〉記載のとおり、勤務場所を離脱したことが認められる。

第三再抗弁について

一  地方公務員法三七条一項が憲法二八条に違反するとの主張について

1  地方公務員の地位の特殊性等と労働基本権の関係について

地方公務員も、憲法二八条の勤労者として同条による労働基本権の保障を受けるが、地方公共団体の住民全体の奉仕者として、実質的にはこれに対して労働提供義務を負うという特殊な地位を有し、かつ、その労務の内容は、公務の遂行すなわち直接公共の利益のための活動の一環をなすという公共的性質を有するものであって、地方公務員が争議行為に及ぶことは、右のようなその地位の特殊性と職務の公共性と相容れず、また、そのために公務の停廃を生じ、地方住民全体ないし国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれがある点において、国家公務員の場合と選ぶところはない。

さらには、地方公務員の勤務条件が法律及び地方公共団体の議会の制定する条例によって定められ、また、その給与が地方公共団体の税収等の財源によってまかなわれるところから、専ら当該地方公共団体における政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮によって決定されるべきものである点においても、地方公務員は国家公務員と同様の立場に置かれており、したがって、これらの場合には、私企業における労働者のように団体交渉による労働条件の決定という方法が当然には妥当せず、争議権も、団体交渉の裏づけとしての本来の機能を発揮する余地に乏しく、かえって議会における民主的な手続によってなされるべき勤務条件の決定に対して不当な圧力を加え、これをゆがめるおそれがある。

それゆえに、地方公務員の労働基本権は、地方公務員を含む地方住民全体ないし国民全体の共同利益のために、これと調和するように制限されることも、やむを得ないところといわなければならない。

2  代償措置について

さらに、地方公務員法上、地方公務員にもまた国家公務員の場合とほぼ同様の勤務条件に関する利益を保障する定めがされている(殊に給与については、地方公務員法二四条ないし二六条など)ほか、人事院制度に対応するものとして、これと類似の性格をもち、かつ、これと同様の、又はこれに近い職務権限を有する人事委員会又は公平委員会の制度(同法七条ないし一二条)が設けられている。

もっとも、詳細に比較検討すると、人事委員会又は公平委員会、特に後者は、その構成及び職務権限上、地方公務員の勤務条件に関する利益の保護のための機能として、必ずしも常に人事院ほど効果的な機能を実際に発揮し得るものと認められるかどうかにつき問題がないわけではないけれども、なお中立的な第三者的立場から公務員の勤務条件に関する利益を保障するための機構としての基本的構造をもち、かつ、必要な職務権限を与えられている(同法二六条、四七条、五〇条)点において、人事院制度と本質的に異なるところはない。したがって、人事委員会又は公平委員会は、制度上、地方公務員の労働基本権の制約に見合う代償措置としての一般的要件を満たしているものと認めることができる。

3  まとめ

以上の次第であるから、地方公務員法三七条一項前段において地方公務員の争議行為等を禁止しても、地方住民全体ないし国民全体の共同利益のためのやむを得ない措置として、それ自体としては憲法二八条に違反するものではないといわなければならない。

二  地方公務員法三七条一項は憲九(ママ)八条二項及びILO八七号条約に違反するとの主張について

(証拠略)によれば、我が国も批准するILO八七号条約等の解釈に関し、本件各懲戒処分後の昭和五八年以降に、ILO条約の遵守を確保するためにILO理事会に設けられた監視統制機構である条約勧告適用専門家委員会及び結社の自由委員会が、ストライキの全面禁止は、特にその停止が国民の生命、身体の安全等を危うくするいわゆる不可欠業務に従事する公務員に限定すべきであり、すべての公務員について全面的にストライキを禁止する国内法は右八七号条約三条及び八条二項に違反するおそれがある旨の見解を表明し、かつ、これを禁止できる場合でも労働者の利益を保護するために、適切、公平かつ迅速な調停又は仲裁手続が代償措置として設けられていなければならず、その手続においては、関係当事者が手続のあらゆる段階で参加することができ、その裁定はすべての場合に当事者双方に対して拘束力を有し、いったん下された裁定は迅速かつ全面的に実施されなければならないとの見解を表明していることが認められる。

しかしながら、右各委員会の見解がILO条約を解釈する際の法的拘束力ある基準として法源性を有するものとは認められないばかりか、右八七号条約はもともと結社の自由及び団結権の保障を目的としたものであって、争議権を取り扱うものではないとの了解のもとに採択されたものであり、その後、本件各懲戒処分に至るまでの間に、この了解が変更されたとは認められない。したがって、地方公務員の争議行為を一律に禁止した地方公務員法三七条一項が右条約に違反し、その結果、条約遵守義務を規定した憲法九八条二項に違反するということはできない。

三  人事院勧告完全実施を求める本件闘争に地方公務員法三七条を適用することは違憲であるとの主張について

一〇・八闘争がいわゆる公務員共闘の統一要求に日教組及び北教組の独自要求を加えた賃金ないし勤務条件の改善を求めたものであり、人事院勧告の完全実施とそのための財源の確保を目的とした争議行為であったことは、原告らの自認するところである。

ところで、(証拠略)によれば、昭和三五年以降の人事院勧告は、労働側の要求額とは掛け離れ、大幅に下回わっていたこと、人事院勧告の推移と決定は、昭和三五年から給与水準の引上げ等の改善が勧告されるようになり、同年以降昭和四三年まで、実施時期を除き(人事院勧告は五月一日実施の勧告であったが、決定された実施日は、昭和三五年から昭和三八年までは一〇月一日と、その後昭和四一年までは九月一日と、昭和四二年は八月一日と、昭和四三年は七月一日とされた。)、勧告どおり実施されたことが認められる。

以上の事実によれば、人事院勧告は、労働側の要求額とは掛け離れていたものの、勧告そのものは、順次、完全実施へと移行する状況にあり、地方公務員法一四条(情勢適応の原則)及び同法二四条三項(均衡の原則)の各規定の存在並びに個々の地方公共団体の職員についての人事委員会勧告について特段の立証のない本訴においては、右の期間内の地方公務員に対する人事委員会の勧告内容及びその実施状況も、右国家公務員と同様の状況にあったと推認できる。されば、人事院勧告の実施時期を含め完全実施をみない不満や、人事院勧告そのものが労働側の要求水準からかなり低いとの不満を残したであろうと推測できるものの、右の人事院勧告の実施状況からすると、本件争議行為及び本件各懲戒処分当時、前説示の代償措置がその本来の機能を発揮していなかったものということはできない。

したがって、一〇・八闘争に対し、地方公務員法三七条を適用して懲戒処分を行うことは、憲法二八条に違反するとの原告らの主張は採用できない。

四  本件宿日直命令は憲法二七条二項、地方公務員法二四条六項に違反するとの主張について

1  労働基準法四一条三号の規定は、その規制対象を必ずしも断続的労働を本来の業務とするものに限定するものと解すべきではなく、ある業務に従事する者がその本来の業務以外にこれに付随して断続的労働である宿日直勤務に従事する場合においても、この両種の業務を併せ一体として考察し、労働密度の点から過度の労働に至らず、労働時間、休憩及び休日に関する法的規制を宿日直勤務に関する限り除外しても労働者の保護に欠けるところがないと認められる場合をも包摂する趣旨の規定と解するのが相当である。そして、労働基準法施行規則二三条は、労働基準法四一条三号に該当する特殊な場合の解釈規定と解すべきである。

2  北海道学校職員の勤務時間及び休暇等に関する条例(昭和二七年条例第八〇号)では、学校職員には教諭を含み(二条)、教育委員会は、学校職員の勤務時間及び休暇等について、その勤務条件の特殊性その他の事由によりこの条例の規定により難いことがあると認める場合においては、人事委員会の承認を経て、教育委員会規則で特例を定めることができる(一一条)と規定する。ついで、これを受けた北海道立学校管理規則(昭和三二年教育委員会規則第一号)では、校長は、右教育委員会規則に定めるものを除き、所属職員(道立学校の校長、教員、事務職員、学校栄養職員、看護婦、准看護婦及びその他の職員のうち、校長を除いたものをいう。三条二号)に校務を分掌させることができ(七条一項)、「校務」とは、法令、条例、教育委員会規則その他の規程に基づく事務及び職務に関して命じられた事務その他道立学校の事務をいう(三条一号)、宿直及び日直の勤務(道立学校における正規の勤務時間以外の時間、休日及び休暇日等に本来の勤務に従事しないで行う校舎、設備、備品、書類等の保全、外部との連絡、文書の収受及び校舎内の監視を目的とする勤務をいう。三条四号)については、校長が定める(一二条)と規定する。これらの諸規定によれば、高等学校教諭の主たる職務は生徒の教育にある(学校教育法五一条、二八条六項)が、さらに、学校の所属職員として、校長の監督のもとに、教育活動以外の学校営造物の管理運営に必要な校務を分担すべき地位にあると解される。したがって、校長は、校務処理の必要性に基づき、所定の手続きを経て、教諭に対して、宿日直勤務を含む校務の処理についての職務命令を発することができ(地方公務員法三二条)、右職務命令があれば、それは教諭の具体的職務の内容となるものと解すべきである。

3  以上の次第で、宿日直勤務についての職務命令権を有する校長のなした本件各宿日直勤務命令はいずれも有効であり、同命令が憲法二七条二項、地方公務員法二四条六項に違反するとの原告らの主張は採用できない。

五  懲戒権濫用の主張について

1  一〇・八闘争関係について

(証拠略)によれば、北教組は、日教組に加盟しており、昭和三五年の公務員共闘の結成に際してこれに参加し、同年を第一次とし、以後毎年、公務員共闘として賃金闘争を行ってきたこと、日教組は、昭和四三年第九次賃金闘争において、人事院勧告の完全実施等の要求を実現するため、公務員共闘の統一闘争として、全組合員が一〇月八日に早朝一時間の休暇をとり、原則として市町村単位の要求貫徹集会を開催することを決定したこと、北教組は、この決定に基づき、各組合員の批准投票を行い、約六〇パーセントの賛成を得たうえ、一〇・八闘争行ったこと、一〇月八日当日には、道内公立学校全教職員四万九三〇九人のうち、一万五八六九人が一〇・八闘争に参加したことが認められる。

以上の事実によれば、一〇・八闘争は、原告らを含む多数の公立学校教職員が北教組の統制のもとに、一斉に年次有給休暇届を行い、集団的に職務を放棄したものであるから、いわゆる一斉休暇闘争に該当すると認められる。したがって、原告らの右年次有給休暇の申請は、適法な年次有給休暇申請権の行使とは認められない。

2  宿日直闘争関係について

校長がその所属職員に対し、職務命令としての宿日直勤務命令を発することができることはすでに説示したところである。宿直勤務が時として苛酷な勤務となり、教員が本来の職務である教育に専念するについて、支障を来しかねないものとなることは、十分理解できるところではあるが、本件当時、国や他府県においても、宿日直の全面的廃止の状態にはなく、徐々に廃止される状況にあった(原告らの自認するところである。)ことを斟酌すると、北海道の高等学校における当時の状況としては、宿日直勤務命令を発することが必要やむを得ないものであったと推認できる。したがって、原告らの本件宿日直勤務命令拒否には正当性を認めることができない。

3  教研集会参加のための欠勤関係について

(一) 教特法二〇条二項の解釈について

(1) 教員の研修について

教育の本質は、教員と児童生徒との人格的な触れ合いにあり、単なる知識技術の伝達にとどまらないものであることから、教育の直接の担い手である教員については、絶えず研究と人格の修養に努めることが求められる(教育基本法一条、二条参照)。教特法一九条一項も教育公務員に対して不断の研修に努めることを義務づけるとともに、自主・自発的な研修なくしてその職責を遂行し得ないことを宣言しているところである。すなわち、教員の研修は、教育の本質に根ざすものであり、教育を司る者としての専門性と自主性、自発性を不可欠の要素として成り立つものといえる。

(2) 教特法二〇条二項の承認の際の利益考量について

教特法二〇条二項が「教員は、授業に支障のない限り、本属長の承認を受けて、勤務場所を離れて研修を行うことができる」と規定している趣旨も、右のような教員の職務の特殊性と研修の重要性を受けて、教育公務員のうち、特に教員について、職務としての公的研修のほかに、自発的な私的研修を奨励し、勤務時間中においてもできる限りの便宜を図ろうとするものである。

しかしながら、教員も本来的職務として、勤務場所での授業その他の日常的業務を有している。したがって、研修のためとはいえ、無限定の勤務場所からの離脱は、当該教員に課せられた教育の中核をなす授業の遂行に支障を来し、児童生徒の授業を受ける利益を奪うことにもなる。このようなことから、同法二〇条二項は、教員が研修のために勤務場所を離れることについて、学校運営の責任者である本属長に授業への支障の有無を判断させ、その承認に係らしめることによって、児童生徒側の授業を受ける利益と研修による利益との調和を図ったものといえる。

(3) 本属長の承認について

教特法二〇条二項の文言及び承認の際の右のような利益考量を斟酌すると、授業に支障が生じるのは、まず、当該研修期間内に当該教員の授業が予定されている場合である。このような場合には、まさにその研修への参加により授業に支障が生じるから、本属長は、原則として同法二〇条二項の承認をすべきではないこととなる。

次いで、当該研修期間内に当該教員の授業そのものは予定されていないが、当該教員の研修参加による欠務が、当該教員の授業実施のための準備のほか、当該教員の授業と密接に関連する教育課程の編成や指導計画の作成等への参画に差し支えを来し、又は欠務ないし当該研修への参加そのものが当該教員と児童生徒との人格的な触れ合いに影響を及ぼすなど、実質的にみて児童生徒の授業を受ける利益を損なうことになる場合にも、教特法二〇条二項の授業に支障を来たす場合に当たると解するのが相当であり、本属長は、原則として同法二〇条二項の承認をすべきではないこととなる。このような場合が予測されるときは、本属長は、同項の承認に際して、児童生徒側の授業を受ける利益と研修による利益との利益考量の上に立つ総合的判断が求められるものであり、その限りにおいて、研修の主催母体や内容等の研修の実態、その態様及び性格、教育公務員としての身分に伴う参加の相当性等の事情を考慮できることとなる。

しかしながら、以上に該当しないときは、仮に、研修への参加により授業以外の校務運営に影響を及ぼす、又は地方公務員法上の服務に関する規定等に違反する(右地方公務員法違反行為に対する措置は本来的に人事権を有する教育委員会の権限に属するものである。)等の事態が想定されるとしても、特段の事由のない限り、同法二〇条二項の承認を拒絶することは許されないと解するのが相当である。

(二) 本件研修参加欠勤の性格について

(証拠略)日教組及び日高教組は、日教組第一九次・日高教第一六次教育研究全国集会要綱において、「教育研究活動は、賃金闘争や権利闘争などと一体的にすすめられるとき、もっともよく前進してきました。教育研究活動を教育闘争、組合の組織活動としてとらえて発展させることが重要になっています。」と位置づけており、教研集会の組合闘争としての側面を強調して、その参加を求めているが、その組織に加盟する北教組も同一の路線の上に立つものと推認されるから、本件研修参加欠勤関係は、北教組の闘争の一環としての組合活動への参加と認められる。

以上の事実によれば、本件教研集会は、一面教員の自主的研修の場たる意義を有するとともに、他面、教職員組合の実践活動としての面を有しているから、これに参加する教員は、自主的研修を行うものであると同時に、これと不可分一体のものとして、職員団体のための活動を行っていたものと認められる。

(三) 本件における授業に支障の有無等について

(1) 原告斎藤信義について

原告斎藤信義本人尋問の結果によれば、同原告が第一回合同自主教研釧路集会に参加した当日(昭和四三年一〇月一九日)は土曜日で二学期の中間考査が実施される日であったが、同原告の出題する科目はなく、また試験監督の役割の指定もなかったことが認められたのであるから、同人が同日に欠勤したことのみでは、同人に前記授業の支障が存在したと認めることはできず、他に同人に前記授業の支障が存在したことを認めるに足りる証拠はない。

もっとも、(証拠略)によれば、当時、北教組釧路支部厚岸支会厚水分会長の地位にあった同原告は、所属校長から、本件研修の参加について、職専免研修としては承認できないと説明を受けながらも、職専免研修としての承認に固執し、その承認がないことから、当日の欠勤行為に出たものであったことが認められ、同人の組合における地位や前記認定の北教組の指示を斟酌すると、同人の本件研修参加への意図は、北教組の指令に従った組合活動への参加の意識が大きな部分を占めていたとみなし得る。しかしながら、すでに説示のとおり、同人については、当日、授業に支障が存在したことを認めるに足りないのであるから、同人の参加が組合活動の面を有していたとしても、そのことのみでは教特法二〇条二項の研修の承認を認めない理由とはなし得ない。したがって、同人に対する研修参加の不承認は校長の裁量権の範囲を逸脱しており、裁量権の濫用として、違法といわなければならない。

以上のとおりであるから、同原告の右研修参加を理由とする欠勤を職務専念義務に違反する行為とみなすことはできず、ゆえに、同原告に対して、右教研集会に参加するための欠勤を懲戒処分の事由とすることは許されないというべきである。

(2) 原告橋本浩二、同松本徹及び同小原忠一について

(証拠略)、原告橋本浩二、同松本徹及び同小原忠一は、本件研修参加のための欠勤当日、いずれも受持授業が予定されていたこと、本件研修参加のための欠勤により、原告橋本浩二は、昭和四三年一一月七日に四時間の、同月八日及び九日はいずれも二時間の授業とそれぞれの日のホームルームの時間の勤務を欠き、原告松本徹は、同月八日に二時間の授業を欠き、原告小原忠一は、同月八日に四時間の授業を欠いたこと、そのために、学校当局は、原告橋本浩二の右授業時間を自習に変えるとともに、代替教員で生徒の監督をし、原告松本徹及び同小原忠一の授業をいずれも代替教員で補充したことが認められる。

以上の事実によれば、原告橋本浩二、同松本徹及び同小原忠一については、当該日には、いずれも授業への支障が存在したものと認められるのであるから、原告橋本浩二、同松本徹及び同小原忠一に対する校長の不承認扱いが違法であるとの同原告らの主張は採用できない。

4  懲戒権濫用について

(一) 裁判所は、懲戒処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。

(二) 原告斎藤信義を除く原告らについて

本件各懲戒処分の事由のうち、一〇・八闘争は、前記認定のとおり違法な争議行為であり、しかも、参加者の教員多数がその職場を放棄したものであり、その規模及び態様とも決して軽微なものではないこと、宿日直拒否闘争は校務の正常な運営に、研修参加欠勤(原告斎藤信義に関する部分を除く。)は授業の正常な運営にそれぞれ支障を与えたこと、また、原告ら(原告斎藤信義を除く。)は、別紙「懲戒処分の事由」目録(一)(略)及び(二)(略)記載のとおり、懲戒処分の対象となった行為が二回ないし三回に及び、原告藤瀬愿及び同細野勲雄においては、昭和四四年六月六日付け懲戒処分の際に懲戒処分の事由の一つとして告知された宿日直勤務命令拒否を右懲戒処分の後に再度行ったために、それまでの処分留保の宿日直勤務命令拒否の分を含めた形での昭和四五年一月二四日付け懲戒処分であったこと、その懲戒処分の内容が処分としては一番軽い「戒告」であったことを総合すると、原告ら主張の一〇・八闘争及び宿日直拒否闘争の目的及び要求の切実さを考慮しても、原告ら(原告斎藤信義を除く。)に対する本件各懲戒処分が社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱したものとはいえない。

(三) 原告斎藤信義について

原告斎藤信義については、第一回合同自主教研釧路集会出席のため昭和四三年一〇月一九日に勤務場所を離脱したことが懲戒処分の事由となし得ないことはすでに説示したところである。しかしながら、右事由を除外しても、同原告は、前記のとおり、一〇・八闘争及び宿日直拒否闘争のための欠勤という懲戒処分の対象となった各行為を行ったこと、その懲戒処分の内容が処分としては一番軽い「戒告」であったことを斟酌すると、本件戒告処分が社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱したものとはいえない。

(四) まとめ

したがって、本件各懲戒処分が懲戒権の濫用であるとする原告らの主張は理由がなく、採用することができない。

第四結論

よって、本件各懲戒処分が違法であることを前提とする原告らの請求は理由がないから、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項を適応して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 畑瀬信行 裁判官 草間雄一 裁判官 鈴木正弘)

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